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~日常を離れてつくったものたち~ 創作文・写真・絵
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「晴れた日に」

わたしはずっと待っていた

広い砂漠で一台のオンボロバスがやって来るのを

排水口の向こうの世界の王様とポロをするのを

鏡に映るわたしが心から笑ってる日が来ることを

安心して電車に乗れる日が来ることを

これから会う人と一緒に時間を過ごせることの喜びで、
たたそれだけで心がいっぱいになる日が来ることを

幸せだったな、と言って死ねる日が来ることを



2003.
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「無題」

彼女を迎えに行くんです。
彼は本当に嬉しそうにそう言った。

「彼女がスペインから帰って来るんです。
 3年間待ち続けたんです。
 大好きだったから。」

その間彼は彼で日本で一生懸命働いていた。
スーツを着て重いカバンを持って、上司に怒鳴られたり可愛がられたりしながら、
幸せな日が必ず来ることを信じて。

真っ赤な口紅をつけた髪の長い女の子がニコッと笑いながらてくてくやって来た。
その子の後ろから、まるでお陽さまのようなキラキラしたものがついてきた。

風も光も朝露も、すべてを含んでいるような笑顔。


2002.9.14
「風呂場にて」

お風呂で吐くように泣いていたら、
もうやめなさい、と声が聴こえた。
顔を上げると誰もいなかった。
私は腫れたまぶたでキョロキョロした。


2002.9.14
「幸福な日曜日」

目が覚めるまでまって

暑くて汗びっしょりだけど

家の中を行き交う母親の足音

毛布のやわらかさに頬をすりよせ

子どものように丸くなる

そんな幸福な日曜日が存在していること



1998.6
「夢十夜 のもう一夜」

朝、目が醒めると
白い光がレースのカーテン越しに私の布団にも届いていた。

水色のポットに熱いお湯を沸かして朝一番のお茶を飲んだ。
昨日アイロンをかけたシャツを着た。
冷めたアイロン台をいつもの場所へしまった。
おととい観た映画のパンフレットの空色がとてもきれいだった。

奥歯が増々、痛む。

3時間も眠っていないのに、鏡の中の私は真っ白い透き通るような肌をしていた。



会社へ着くと早速一日費やしても終わらない量の仕事を任された。

ほとんど話さず、黙々と仕事を続けた。
その割に暇そうな、周りの席の同僚の囁き声が耳障りで、大きなため息をいちいちつかなくてはやってられない程イラついていた。
でも、
我慢を重ねた末に行ったトイレの鏡に映る私の瞳は、真っ黒で、井戸の底のように深く澄んでいた。

やっと仕事の目処がついたので閉店間際の定食屋へ駆け込んだ。

もう肉じゃが定食しかないと言われて、
おいおい、夕食ぐらい好きなもの食べたかったのに、、、と泣きべそをかいた。
冷えかけたご飯を口に運びながら眠くて、眠くて、何度も目をこする。
眠い上にへとへとで、油でテカテカだろうと思っていた肌の触り心地は、まるで絹のそれのようになめらかで、赤ん坊のおしりのようだった。



終電も間に合わずタクシーで帰った我が家には、
幼なじみの友達が来ていた。
少し寒そうにドアの前にしゃがみ、私の帰りを待っていた。

私は心が温かくなって、心からその友人を歓迎した。

しかし、上がって10分も経たないうちに小さな口喧嘩が始まり、過去最大の近所迷惑な大げんかになり、迷うことなく絶交した。



ただでさえ疲れているのに、そのおかげで、4時になろうとしているのに全く眠くならない。
冷たい水を飲みに立った静まりかえったキッチン。

そこの手鏡に映った私の顔は穏やかだった。
大好きな人から、たった今愛を告白されたかのような、晴れ晴れとしてそしてどこか照れくさそうな、何ともいえないいい表情をしていた。
長年悩みの種だったにきびや吹き出物もきれいに無くなっていた。

次の朝、
心が海のように果てしなく、次第に色がなくなってゆくのを感じた。
どの鉱物よりも純度が高くて、南国の甘いフルーツのような香りがした。

「ああ、もう死ぬのだったのか」

私はその時初めて知った。



1997.8.23
「縁(ふち)」


「弱い子は殺してしまいましょう。
 弱い子は殺してしまいましょう。」

そう言いながら毎晩、
頭巾をで顔を覆った背の高い集団が道を通り過ぎる。

いつから始ったのか知らない。

その行列がどこから始まりどこへ帰るのか、知らない。

大人も子供も、
心の中でうずくまっている「子ども」を
知らないうちに天秤にかけられる。

「死んでしまいなさい。
 死んでしまいなさい。」

でも、
本当は、
誰も殺されないことをわたし達は知っている。
誰も死なないことも。

それでも、
毎晩毎晩、頭巾にくるまった背高たちは近所を徘徊する。


1997.11.23
「景色」

アパートのいちばん左の部屋の住人の、同居人が変わった。
木々が生い茂る大家の庭の、向こうに見える人影が変わった。

いつも1人だ。
2人で住んでいるのにたった1人のように心もとなく動いている。

部屋の戸を閉めると、平気で裸で歩いている。
色気とかそういうものは全くなく、だらしなく裸。

ほとんど家にいないのだが、居る時は
夕ご飯を窓辺で食べている。
朝ご飯みたいなものを食べている。
手を合わせご馳走さまと言っている。

いつもわらっている。
心もとなさそうに。

、かと思うと、
何かを見据えるようにじっと真剣な表情になっている。

辛そうで、
手を出したくなる。
滞っていて。

でも昨日からの夏の、
泳ぐように進む雲を見て、
東京の、
少し薄めの青空を見て、
何か少し変わった?

そして今日、空にかかる大きな虹の橋を見上げていた。
その顔。
その心。


2002.7.8
「無題」

「この頬の肉が嫌なの。」
、と女は少し引っ張って見せた。
 
男は女の眼を見ながらその肉をゆっくり引っ張った。

伸びるところまで伸ばそうとした。

女の顔は半魚人のようになっていった。
けれど、大人しくしていた。

限界まで伸びると、
男はそのまましばらく引っぱり続けた。

2人の眼は合ったまま。

1997.
「手放しましょう」

手放しましょう

手放しましょう

余計な鎧はもう脱ぎ捨てましょう

立ちましょう

立ちましょう

あなたが主人公であることを思い出しましょう

余計な、計算や哀しみや孤独感はいりません

そんななんのたしにもならないもの
こちらから棄ててしまいましょう


2006.9.23
「あい」


彼女はそれを丁寧に手のひらに包み、
「ありがとう。」、と言った。

その眼は一点の曇りもなく、
美しく凛々しかったが、
何かひとつが明らかにそこから消えていた。

愛だった。

彼女の眼からかつて自分にあふれるように注がれていた愛という力だけが
きれいに消え去っていた。

自分への愛だけが、ストンと消え失せてしまった。

見れば見るほど吸い込まれるように彼女は力を増していた。でも、もうそこに自分が映されることはない。


2002.1.
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