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~日常を離れてつくったものたち~ 創作文・写真・絵
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「親水公園」


桜が散っていました。
ちらちらと一枚ずつ。ピンク色の花びらが。
おだやかな風に運ばれて
岩や水面やアスファルトの上に ゆっくりと落ちていました。

まだ踏まれず、濡れてもいない落ちたての花びらは、
咲いているときと同じように 柔らかそうでピンク色。


サンドイッチを見たから思い出してしまいました。
三角形の美味しいサンドイッチ。
片手に抱えられた3つのパックと、しゃがんで書かれた領収書。

鼻水がのびても、
目が腫れても、
その桜の美しさと相まって
悲しくて悲しくてたまらなかった。

もうまっ赤な顔してるとわかっているのに。
皆が心配するのが目に浮かぶのに。

ハラハラと、次から次へと舞い落ちる。


2006.4.

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「詩でも俳句でも短歌でもない」

あすをも知れぬ命のなか、
あすをも知れぬ自由のなか、
ひとつ心にとどめたいのは、
空に昇るかのように伸ばした手のひら。

伸ばし伸ばした腕から浮かび上がるほね。

好きだった、
一緒にいたかった、
愛してました、
そんなコトバの数々よりも、
持ってゆきたい感情は、
あの雲を超えて、
伸びて伸びてゆけると感じた手応え。

なにをも運べず道すがら、
春の宵に見た光のわ、
たましいの気配に混じりたり。



2006.5.

「世界遺産」

この山のてっぺんをわたしはみたことがある。
以前。
ここにうまれてくるのをえらぶまえ。

ずうっとむかし。
はるかかなた。

このとがった雪山の先端をみながら夕陽の紅さにみとれていた。
このほしにうまれるずっとまえ。
はるかかなた。

まだてんしみたいなものだったころ。

かみさまからすこしはなれてこの山をみにきたんだ。

はるか下の湖面にはおひさまのひかりが当たって反射していた。

おかあさんのおかあさん、おとうさんのおとうさん、
そのかけらさえまだ存在していないころ。


                     2006.4.30

「再び 森」

ある森に一本の巨木がありました。
人々はそれを見つけ、驚き、崇めました。
その代わり、平らに整備された木の道ができ、汚物であふれる仮設トイレは変化せず、
人々の自然への畏敬の念と同量の重さが木の根を踏み固めました。

それでも偉大な森は神々しさを失わずそこに在りつづけました。

しかしそうはいっても踏まれに踏まれた根っこは相当のダメージを受け、
数百年後、数世紀後を慮った一部の人々の働きかけによって、
その森はこの先10年間人間が踏み込むことができないように定められました。
その声には不満の声も大きかったのですが、ユネスコが推奨したことあり実行されました。
その期間、なんと80年。
その後も100年、101年、、、と人間が近付かない時間が流れました。

100年後に生きてる人はいません。
人々はその森を一部に伝説として残しただけでした。

巨木はその間また霊気をため、
草や苔がすべてを覆いかくしてしまいました。

止むことのない少ない雨と、晴れることの少ない霧に包まれ森はますます深く広くなりました。


                          2004.4.14



「森の人」


森の人 オラウータンは 百歳を超えると人間のことばをはなすようになる

人間は150歳を過ぎると 世界中の言語の意味が理解できるようになり、

300歳を超えると地球の鼓動を感じられるようになる



                         2004.1.31


「箱男」


「オレは何もいらないよ。」
本から抜け出した箱男は無愛想にそう言った。

「だったらなにか気に掛けてほしそうに私たちと一緒にちゃぶ台を囲まないでくださいな。」

一家は食事中だった。
少し塩っからい味噌汁と冷や奴、黒豆の煮つけ。裏の畑から穫ってきたばかりの甘く熟したトマトに卵焼き、と質素な食卓だった。
質素ではあったがどれも土地物の新鮮な素材のものばかり。

父親は留守にしていたが、一家は黙々と静かに食事をたのしんでいた。

豆電球の薄黄色い光が風にユラユラ揺れる。
ハエや蛾がちらちらと明かりに誘われる。

「もう、箱からでたいなぁ。」
箱男が弱音を吐いた。

「それじゃあ、あなた、箱から抜け出たらただの”男”じゃないですか。男の人は家(うち)に置いとくわけにはいきませんよ。」

外側へやっと出した右足を、箱男はしぶしぶ中へしまった。

お姉ちゃんがくすくす笑った。下を向いて誰にも気づかれないように。



1997,夏

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