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~日常を離れてつくったものたち~ 創作文・写真・絵
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「心の整理」


不安になって 引き出しの中の物をひとしきり出した。
下着を出した。CDも積み上げ、セーターやスカートもだらしなく椅子に引っ掛けた。
枕の脇にあったラベンダーのポプリが、もうとっくに匂いがなくなったことを知っていたので捨てた。
知らない下着も、知らないタイトルのCDも、知らないセーターもなかった。
私の知っている物ばかりだった。

ふと見ると、部屋が埋め尽くされていた。
息苦しかった。全部を窓の外へ放り出したかった。

そんな空想もほんの一瞬。

部屋はどんよりと暗く、幾重にも積み上げられた物たちが 今にも倒れ掛かりそうだった。


1999.11.
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「泣くお面」


泣くお面を見つけた。

遠いアフリカのなんとか族のそのお面は、何年か前からうちの玄関脇に掛けられている。

そんなある日見てしまった。
つるつるに磨かれた木の頬を 腫れぼったい目から溢れた涙がまるで流れ星のように ひゅんひゅん と落ちていた。

滝のようにではなく、
じわじわでもなく、
雨もりのように規則正しく、結構速いテンポで頬を伝っていた。

私はしばらく見とれてしまった。

それは一生懸命に泣く人の姿だった。

慰めのことばを必要としない正真正銘の水の粒だった。

暗闇のなか 光るように表情のない手をゆっくり動かした。
指先が軽く頬に触れた。

つるつるの頬の上を幾粒もの涙がこぼれる。

私の指先も涙に濡れる。

何もしてあげられない。
人はけっきょく力になれない。
さわることしかできない。

1998.10.
「だから、試しに」


だから試しに走ってみた。
ぶつかってもぶつかっても、振り向き謝りながら、脇に眼を移すこともなく、はぁはぁ息をきらせて走り続けた。
途中の市場で、炎の中で七色に変わるおいしそうなアメ玉を見付けても、
その手ですくって口を潤したいと思うような湖の横を通っても、走り続けた。
何度も血を吐いたけれど、眠る間もろくになかったけれど、耐えられた。
本当に辛いものはこんなものじゃないという気がした。
「がんばる」という言葉は好きではなかったから、走り続けた。


作成年月日不明
「隔離された病」


「あなた 泣いている?」

わたしは泣いていた。

シワシワのごつごつの両手で
わたしは顔を包まれていた。

彼は目が見えなかった。 指もなかった。

気付かれたくなかったのに。
泣くところではなかったのに。

わたしは悔しくて泣いていた。

「本当に嬉しい時、って悲しい。」んだって。

紅いりんごが揺れていた。 向こうに岩木山が見えていた。

見えない眼がくるくるとまわっていた。
白い歯がうれしそうに笑っていた。


2002.2
「あふれた愛」


その人は明らかに軽くなっていた。表情が。身体が。

年を経て、瑞々しい若さをもっているわけでもなく、
よくよく見れば消えないしわがうっすらと浮かんできているのに、
明るくなっていた。  膜がはがれたように。 カーテンが開いたように。
霧が晴れたときのように。

腕が、肩が、脚が、細くなっていた。
プールで泳いでカサカサのはずなのに、
肌は清らかな光を放っていた。
その白い足の甲は人のものではないようだった。

そして、笑っていた。
悲しみ、とひと言では表現できないような、
何か大きな哀しみを包み込んだ柔らかい顔で。
一瞬、ほんの一瞬見とれてしまうほど。

人は変わる。

その両足で立つと決めた時から。 人をも守れるようになる。

彼女は決心したのだな、と思った。
大切な人を、大切な人として心にとどめておくことにしたのだ。

まるで泳いでいるかのように、前へ前へ伸びてゆこうとしていた。
だからふと見ると、まるでフルーツのようにキラキラと顔から何かが発散されていた。

わたしは敏感だったからそれに気づいた。

2001.10
「正論」


”たくさん食べると忘れられるよ。
 嫌なこと全部。
 カロリーのこととか、お腹いっぱいとか そういうの考えなくなるところまで
 ひたすら口に入れるの。 食べたかったものみーんな口に運ぶの。
 助けを求めたかったこと、泣きたかったこと、全部、置き換えられるまでひた
 すら。
 深く考えてはダメ。

 涙が出てきたら、 そこで終わり。”


オノ・セイゲンの音楽が流れていた。

お腹の皮が伸び切ってはち切れてしまいそうだった。

私は助けてほしかった。 誰かに、もう大丈夫だからと迎えに来てほしかった。
でも誰も来ないということも最初から知っていた。


食べても 食べても 食べても 食べても


楽にはならなかった。

そんなの7年前にとっくに知っていた。

また戻ってしまった。


2001.11.
「はる」

春が来た。

今日来た。

明日もいる?


春の効き目。

  気持ちまでたかーくなること。晴れ晴れあっぱれ。
  いつもより口が大きく開いていること。


恥ずかしがってた女の子が顔を出した。

今まで呑み込んでいた、
おどる身体や、ギャグたちが、すこしずつ、でも、
大きく大きく伸びながらおもてに出てきた。

それはもうすぐ多分止められなくなるくらいになるんだろう。



作成年月日不明

「手当たりしだいの夏のおわり」

ならばあなたは他人の気持ちなんて考えないのでしょう。と言われたから、私は情けなくなってナミダがこぼれ堕ちてしまった。どこの世界に他人の気持ちをおもん量れない人がいよう。あなたの気持ちも重ね重ね考えたに決まっているではないか。だからこうしてこの場にいるのではないか。なぜいつだって、あなた方は私がなんにも考えなしに右往左往好き放題に手脚を伸ばしたと決めつけるのか。

2006.8.

「陽のしずむ」

時間が溢れるほどにたくさん。

手からこぼれ落ちた。

髪を切った少女。

手からこぼれ落ちた。

山から伝わる鼓動。

手からあふれ落ちる。

あふれ出したのは愛。

いつしかの、通りすがりの誰かからのもらった愛。


2006.7.

「おどりましょう」

おどりましょう

パンツ一丁でも

お気に入りの服を纏っていても

そんなのどちらでも構わないんです

ほおに当たる一番の気配を感じなさい

つめの先まで意識をとどかせて


地面に根が生えてる限り、あなたは生きている

繋がっている

こんな雨上がりの夜

風と新しい空気のなか




2006.6.

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