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~日常を離れてつくったものたち~ 創作文・写真・絵
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「あい」


彼女はそれを丁寧に手のひらに包み、
「ありがとう。」、と言った。

その眼は一点の曇りもなく、
美しく凛々しかったが、
何かひとつが明らかにそこから消えていた。

愛だった。

彼女の眼からかつて自分にあふれるように注がれていた愛という力だけが
きれいに消え去っていた。

自分への愛だけが、ストンと消え失せてしまった。

見れば見るほど吸い込まれるように彼女は力を増していた。でも、もうそこに自分が映されることはない。


2002.1.
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「心の整理」


不安になって 引き出しの中の物をひとしきり出した。
下着を出した。CDも積み上げ、セーターやスカートもだらしなく椅子に引っ掛けた。
枕の脇にあったラベンダーのポプリが、もうとっくに匂いがなくなったことを知っていたので捨てた。
知らない下着も、知らないタイトルのCDも、知らないセーターもなかった。
私の知っている物ばかりだった。

ふと見ると、部屋が埋め尽くされていた。
息苦しかった。全部を窓の外へ放り出したかった。

そんな空想もほんの一瞬。

部屋はどんよりと暗く、幾重にも積み上げられた物たちが 今にも倒れ掛かりそうだった。


1999.11.
「ロウソク」


蠟燭に火を灯すと 部屋一面に薔薇の香りが広がった。

「知ってる。この香り。 知ってる。 どこかで嗅いだ。」

蠟燭を守るように両手をかざすと、炎が真っ直ぐ上へのぼった。
明るく、すーっと上まで伸びた。
細くなった炎の先から 黒い煙がしゅうしゅうとさらに上へのぼっていった。

炎はユラユラゆれたが、決して消えなかった。

炎に照らし出されたマッチ箱、鉛筆立て、石ころも、
ユラユラゆれているようだった。

窓の外は明るさを帯び始めていた。

青白い世界に少しずつ光が増してゆく。

でも、いま何よりも明るく暖かいのは、
この蠟燭の炎と、ストーブの紅い火。

ゴクン、ゴクンと石油が呑み込まれてゆく音。

そしてやっと休息の時。

昨日のシャンプーの匂いの遺る枕に深く頭を沈める。
目を開いたまま。
何かを見ようとして。
何も見えないのに。

深呼吸する。

そっと目を閉じる。

一日よさようなら。
「泣くお面」


泣くお面を見つけた。

遠いアフリカのなんとか族のそのお面は、何年か前からうちの玄関脇に掛けられている。

そんなある日見てしまった。
つるつるに磨かれた木の頬を 腫れぼったい目から溢れた涙がまるで流れ星のように ひゅんひゅん と落ちていた。

滝のようにではなく、
じわじわでもなく、
雨もりのように規則正しく、結構速いテンポで頬を伝っていた。

私はしばらく見とれてしまった。

それは一生懸命に泣く人の姿だった。

慰めのことばを必要としない正真正銘の水の粒だった。

暗闇のなか 光るように表情のない手をゆっくり動かした。
指先が軽く頬に触れた。

つるつるの頬の上を幾粒もの涙がこぼれる。

私の指先も涙に濡れる。

何もしてあげられない。
人はけっきょく力になれない。
さわることしかできない。

1998.10.
「夫婦」


「自分で方向を見つけていかないんなら
 人間なんて生きてく意味ないんだよ。」

ー末期ガンで不安定になり、わがままを言い出した夫に妻が言った言葉


すると夫は、
「南無阿弥陀仏」と小さな声で何度も何度も唱えだした。
そうして落ち着いていった。

不安定でイライラが止まらなくなってしまったこの人を、
看護婦達は全員で受けとめることにした。
行きたいと思う処へ、できるだけ一緒に行き、
気が済むまで共に時間を過ごした。

いつのまにか、
この人から不安定なイライラは消えていた。

1998.4
「部屋にて」

毛布・羽毛布団、
その上に厚手の重い布団。
枕は首と後頭部に当てる。
厚手の布団は必ずベッドの端からズリ落ちる。
毛布はいつの間にか身体半分に寄っている。
足を動かすと羽毛布団はキャシャキャシャ音をたてる。
その中に潜り込むと、真っ暗。
横向きになって背中と膝を折りたたむ。
目をつむる。
毛布がすべてを包み込んだ?
その暖かさに眠気がしんしんと覆う。

毛布、布団ひっくるめて抱え込む。
腰おしり腿膝すね、それに足首、重力に頼り落ちるところまで沈み安定する。
身体感覚が消える。

「♪ア・アーアア!ア・アーアア〜!」
三日連続ごきげんで同じ歌をうたう小学生の声。

圧倒的な迫力で他人の喧嘩の仲裁に入る丸ボーズ頭の小四の男の子。その場で双方を納得させてしまう。


「こんにちは〜」
毎日笑顔で向かいの家を訪ねてくるヘルパー。

決して目を合わせない隣人に「こんにちは」と言う。彼女は、たった今あなたに気付きましたとばかりに挨拶を返す。娘たちとは早朝からデカい声で話す。

キキー、バタン、がばっ、がさごそがさごそ…ピンポオオ〜ン、
「こんにちはー!!いつもスミマセン!お世話になっていますー!!」。これは我が家に来るCoopの配達の男性。


2005年仕事始めの日。
「だから、試しに」


だから試しに走ってみた。
ぶつかってもぶつかっても、振り向き謝りながら、脇に眼を移すこともなく、はぁはぁ息をきらせて走り続けた。
途中の市場で、炎の中で七色に変わるおいしそうなアメ玉を見付けても、
その手ですくって口を潤したいと思うような湖の横を通っても、走り続けた。
何度も血を吐いたけれど、眠る間もろくになかったけれど、耐えられた。
本当に辛いものはこんなものじゃないという気がした。
「がんばる」という言葉は好きではなかったから、走り続けた。


作成年月日不明
「隔離された病」


「あなた 泣いている?」

わたしは泣いていた。

シワシワのごつごつの両手で
わたしは顔を包まれていた。

彼は目が見えなかった。 指もなかった。

気付かれたくなかったのに。
泣くところではなかったのに。

わたしは悔しくて泣いていた。

「本当に嬉しい時、って悲しい。」んだって。

紅いりんごが揺れていた。 向こうに岩木山が見えていた。

見えない眼がくるくるとまわっていた。
白い歯がうれしそうに笑っていた。


2002.2
「あふれた愛」


その人は明らかに軽くなっていた。表情が。身体が。

年を経て、瑞々しい若さをもっているわけでもなく、
よくよく見れば消えないしわがうっすらと浮かんできているのに、
明るくなっていた。  膜がはがれたように。 カーテンが開いたように。
霧が晴れたときのように。

腕が、肩が、脚が、細くなっていた。
プールで泳いでカサカサのはずなのに、
肌は清らかな光を放っていた。
その白い足の甲は人のものではないようだった。

そして、笑っていた。
悲しみ、とひと言では表現できないような、
何か大きな哀しみを包み込んだ柔らかい顔で。
一瞬、ほんの一瞬見とれてしまうほど。

人は変わる。

その両足で立つと決めた時から。 人をも守れるようになる。

彼女は決心したのだな、と思った。
大切な人を、大切な人として心にとどめておくことにしたのだ。

まるで泳いでいるかのように、前へ前へ伸びてゆこうとしていた。
だからふと見ると、まるでフルーツのようにキラキラと顔から何かが発散されていた。

わたしは敏感だったからそれに気づいた。

2001.10
「正論」


”たくさん食べると忘れられるよ。
 嫌なこと全部。
 カロリーのこととか、お腹いっぱいとか そういうの考えなくなるところまで
 ひたすら口に入れるの。 食べたかったものみーんな口に運ぶの。
 助けを求めたかったこと、泣きたかったこと、全部、置き換えられるまでひた
 すら。
 深く考えてはダメ。

 涙が出てきたら、 そこで終わり。”


オノ・セイゲンの音楽が流れていた。

お腹の皮が伸び切ってはち切れてしまいそうだった。

私は助けてほしかった。 誰かに、もう大丈夫だからと迎えに来てほしかった。
でも誰も来ないということも最初から知っていた。


食べても 食べても 食べても 食べても


楽にはならなかった。

そんなの7年前にとっくに知っていた。

また戻ってしまった。


2001.11.
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